霧でみえない!

気持ちのよい木立の道をぬけると海にでた。

ここはなんて気持ちのよい場所だろう。広がる海にゆるやかな弧を描く砂浜がどこまでも続く。海は波もなく穏やか。日差しも空気も心地よい。誰もいない海岸はとても静かでさわやか。遠くの山や海は白くかすみ、まるで風景画の中に入り込んでしまったかのようだ。日本の太平洋岸にもこんなに気持ちのよい海辺があったのかと、しばらく海を眺める。

大里松原海岸

のんびり海沿いの道を走り出す。まだ朝の7時。今日は天気もよさそうだ。海岸は海部川の河口でおわり、海部の町をぬけて那佐湾にでる。対岸に島のようにみえるのは乳ノ崎。ここは地図でみて気になっていた場所なのだが、来てみてびっくり。海の色が透き通ってなんともきれいなのだ。まるでいろんな青色をちりばめたかのようで、思わずため息がでる。

乳ノ崎

乳ノ崎

那佐湾

那佐湾

国道沿いの歩道から那佐湾を見下ろしながらすすむ。昨日の南阿波サンラインも絶景だったが、今日も朝から絶景続きだ。広々とした海岸が穏やかにみえるのも、海や川の水が透き通ってきれいなのも、住んでいる人の数が少ないためなのだろうか。日本も人の住む前は、こんなふうに穏やかで美しいところがたくさんあったのではないだろうか。透きとおった海の色に心躍らされながら海沿いを南下。

それにしても今日は天気がよすぎて日差しが暑い。日なたをえんえんと走るので昼ごろにはすっかりバテた。毎日朝から暗くなるまで走っている。連日の疲れもたまってきたようだ。しかし今日のゴール、室戸岬はまだまだ先だ。今回の旅はなんだか部活のようになってきた。

ちょっと休憩!

ちょっと休憩!

橋がかもめ!

橋がかもめ!

天然記念物「宍喰(ししくい)浦の化石漣痕(れんこん)

天然記念物、宍喰(ししくい)浦の化石漣痕(れんこん)

遠い昔に海底に積もった地層がなんかの具合で縦になってしまったという漣痕(れんこん)。その先は曲がりくねった山道だ。気合をいれて峠を越えると高知県にはいった。東京からかぞえて11番目だ。すぐに甲浦という漁村にでる。入り江にたくさんの小型漁船。かつては捕鯨やかつお漁がおこなわれていたというが、今はひっそりとした町並み。いままでいくつも似たような集落を通り過ぎてきたが、この町がすこし他とちがう、不思議な雰囲気を持っているのはなぜだろう。

甲浦

甲浦

港に覆いかぶさるような神社

港に覆いかぶさるような神社

ひっそりとした町並み

ひっそりとした町並み

床屋

床屋

路地は細いほど楽しい

路地は細いほど楽しい

何度も休憩

何度も休憩

それにしても今日は暑い。海沿いだからとたかをくくっていたが、ちいさなアップダウンが意外に多く体力を消耗していく。一向に近づかない室戸岬。はてしなく続くかと思われる海沿いの道におもわずめまいがする。

はてしない道のりに、おもわずめまい

はてしない道のりに、おもわずめまい

走り始めて10時間。ようやく室戸岬付近、ホテル明星にたどり着く。今日の宿はもう少し先のキャンプ場なのだが、手前のホテルの日帰り温泉で湯に浸かり、夕飯を食べてしまおうという計画なのだ。この計画、途中までは大成功だった。ほぼ貸切の風呂にゆっくり浸かり、夕ご飯をたらふく食べる。そしてこのままこの宿に逗留できたらどんなによかったか。すっかり緩みきってしまった体に、あとほんの少しだからと言い聞かせ再び走り始める。あたりはもう暗くなり始めている。すぐに着くと思っていたのだが、これが大誤算。まずいきなりつづら折れの急な上り坂が立ちはだかる。最初から自転車をおしてゆっくり上るも、先ほどの風呂上りのサッパリ感はいきなり吹き飛び速攻で汗だくに。そして坂を登るにつれ日が暮れて暗くなるばかりか、あたりは濃い霧に覆われだしたのだ。

暗闇のむこうに

暗闇のむこうに

同じようなヘアピンカーブをいくつも越え、先の見えない坂をえんえんと上ると、闇の向こうにオレンジの光がみえてきた。近づくにつれ霧の中でその光が膨張しているかのようで、なにやら胸騒ぎがする。もしかしたら、あそこではなにかとんでもないことが起こっているのではないか。しかし道は一本道。じりじりと吸い寄せられていく。近づけば近づくほど光が乱反射し、耳がおかしくなってくる。さっきまでただの静寂だったものが、あまりにも高音で聞き取れない大音量の音にいつのまにか変わり、全身を覆うかのようだ。時間までもがスローモーションのようにたわみだす。そしてついに現れた。巨大な憤怒の阿修羅! これはいったいどうしたことか。夢のように現実味がない。しかしこのわけの分からぬ異空間、現にふたりの前に立ち現れてしまっている。目を疑うどころか、阿修羅はこっちをみて怒っているのだ。こんな時間に汗だくになって自転車を押すふたりにとって、あまりに理不尽なこの仕打ち、この現実についていけず、われわれはこの阿修羅を見なかったことのように無視してこの場を立ち去った。しかしあとには、しっかりと怒られた感がのこった。

キャンプ場はまだまだだった。丘を登りきり道は平らになったようだが、霧はいっそう濃くなり、ふたりの自転車のライトではほんの2,3m先しかみえない。半分あてずっぽうで走っているような感覚だ。霧と空気が濃すぎて、まるで暗闇を泳いでいるかのようだ。川でおぼれたカンパネルラはこんな感じ? それともふたりは都会の猟師で、こんどは一枚ずつ服を脱がされてゆくのだろうか。

結局下のホテルから5.5km、標高差200mを1時間半もかけて、誰もいないキャンプ場にまさにぎりぎりでたどり着いた。8時半になっていた。汗なのか霧なのか、2人ともずぶ濡れだった。

追伸 われわれが見た阿修羅。あれはたしかに夢ではなく、しかも菩薩様だった。

馬頭観音菩薩 

カテゴリー: 日本   パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です