白犬、黒犬、そして追突は再会の架け橋?

トルコはどこの町にも猫がいて、よく人に馴れた猫が多かったが、ここギリシャのヒオス島はさらにその上をいくかもしれない。島民と同じだけ島猫がいるのじゃないかと思うほど、どこにいっても猫だらけ。しかしそんなこの島で、なぜか猫ではなく犬との出会いが続くとは。そしてそれが思わぬ展開を見せる事となる・・・

まずは白犬。島の中心ヒオスタウンでレンタカーを借りて1時間、ピルギ村にやってきた。この村は家々の壁やベランダが幾何学模様という、なんとも不思議な町並みで、村に入ってその眩しさに驚いた。初夏の乾いた日差しが白壁と模様にチカチカと跳ね返る。まさかこんな町並みがあるとは・・・自転車旅行で訪れた柳井の白壁の町並みとどこか似ているのは、同じ青く澄んだ空と眩しく白い日差しのせいだろうか。

路地から路地へと二人であてなく歩いていると、いつのまにかゆうがいない。少し戻っても、いない。細い路地は曲がりくねっていくつにも枝分かれし、幾何学模様の壁やテラスがまるで物語の迷宮のようだ。

犬の吠える声が聞こえる。ゆうはあっちかもしれない。白い塀に緑の葉の鮮やかな角を曲がると犬が激しく吠えだした。小さな毛の長い犬が2匹。どうやらその先は玄関で行き止まりのようだ。わかったわかった。そっちには行かない。激しく本気な片方の犬から目をそらさずそのまま後ずさりすればよかったのだが、きびすを返して引き返したのが間違いだった。いて! おいっ! それはやりすぎだろ! そうは言ってみたのものの、完全にこちらの対応がわるかった。隙を逃さず突進して右のふくらはぎをがぶりとやったらしい。すそを上げて見てみると、ちいさな歯形とあざ。一カ所小さな傷になってうっすら血が滲んでいる。傷自体はまったくどうってことないが、犬に噛まれたとなると狂犬病の可能性が・・・ないわけではない。実は旅に出る前、予防接種を受けに行ったとき、狂犬病に関しては万が一噛まれたとき、現地で注射をすれば問題ないとの説明をうけ、受けてこなかった。あとで注射をしてもらおうか。それにしても小型犬といえどあなどるべからず、きっとあいつにしてみたら、続けざまに異邦人がやってきて怒り心頭だったに違いない。その後ゆうはすぐに見つかったが、一連の出来事はなんだか狐につままれたかのようだった。

ピルギ村から島の南を10kmほどさらにすすんで、メスタ村にたどり着いた。空き地に車を止め歩き始めると、城壁のような石を積んだ家々の壁の一角に、門のような村の入り口があった。細い路地がいきなり迷路のようだ。石畳や石積みの壁、家先の花々とひんやりした日陰。ピルギ村のような派手さとは対照的な素朴な雰囲気が漂っている。ちょうど昼時だからか、鳥のさえずりだけが聞こえる。

村に入ってすぐに、ゆうのデジカメが壊れた。カ-ドに記録できなくなったのだ。ピルギ村の不思議な出来事が、この村でも続いているような気がした。カメラの事をあきらめて再び歩き始めると、いつの間にか黒犬がいた。赤い首輪をした中型犬。たまたま同じ方向を行くのか、いつまでも一緒に歩く。彼もどうやら散歩中らしい。たまに立ち止まって眺めたり写真をとったり、というこちらのペースと、あちこちクンクン匂いを嗅いでいる黒犬のペースがだいたい同じなのだろう。白犬とは対照的に一言もわんとも言わず前を後ろをとことことゆく。

そのうちに立ち止まってはこちらを見上げるようになった。さっき白犬に噛まれたばかりだというのに、おまえとはずいぶん気が合うようだな。それなら一緒に行こうか。ぐるりと村の路地をめぐり(メスタ村の中は車の通れる道がなかった)おそらく黒犬と出会ったであろう村の広場に戻ってくるまでおよそ20~30分ほど、一緒に村をのんびり歩いた。撫でたらたいそう喜んだ。

それからエーゲ海を見下ろす眺めのいい道を走り、古い修道院を目指した。ヒオスタウンを見下ろす山の中腹にひっそりと建つネア・モ二修道院はちょうど昼休みで、30分ほど木陰のベンチで昼寝をした。時間少し前に音がして扉が開いた。猫が一匹にゃあと鳴いて中に入ったのでそれにつづいた。こんどはまさか猫? この時間は他に訪れる人はいないようでとても静かだ。扉を開けたおじさんが一人建物の脇に座って何かを読んでいた。あいさつをすると笑顔が返ってきた。修道院はそれほど大きくはないがとても趣があった。ゆうはなんだか生き物みたいだと言った。よく見ると天井のドームが完全な円ではなく少し歪んでいたりして、確かに全体が有機的だった。ゆったり何かに包まれているようで、居心地がわるくなかった。帰り際におじさんが、黒澤明、神風、モンゴルと言った。そう、世界の黒澤、神風、モンゴル? おお! おじさんよく知ってるね! そう、はるか昔モンゴルが日本に攻めて来たとき、神風が吹いたんだよ! きっとおじさんはこうしてそこに座って、ずっと東の日本という国の、遠い昔の出来事を読んで想いを馳せたのだろう・・・扉付近にまたさっきの猫がやってきたのであいさつをして出た。

ヒオスタウンにようやく戻り、街の真ん中にある公園を過ぎて右折しようと一時停止したとき、どん、と車もろとも揺れた。ゆうと顔を見合わせた。追突されたようだ。路肩に寄せると後ろの赤い車から若い女の人が出てきた。こちらのハローという問いかけに、少し申し訳なさそうな笑顔で返事が来た。こちらの事情を説明し、電話番号を交換し、写真を撮り、すぐ近くのレンタカー会社に戻った。レンタカー会社のボスの対応は穏やかだった。一時彼女と連絡がとれなくなるというトラブルがあったが、彼女の父親がやってきて事なきを得た。後ろからの追突は後ろの車の責任というのは万国共通のようで、少しのもめ事もなく事が済んだ。レンタカー会社、そして相手の人たちの対応にギリシャの懐の深さみたいなものを感じた。

そうだきみたちに、少し待ってくれるかい、といってボスは机の中をかき分け、手帳を取り出し、ぺらぺらとめくりながらこう切り出した。遠い昔イギリスにいた頃、一人の日本人と知り合った。すぐに二人は仲良くなり、遊びに行ったりバーで語り合ったり、よく二人で共に時間を過ごした。とても大切な友だちになった。ただ、自分は手紙を書くのがどうも苦手で、あれ以来連絡をとっていない。もし彼と連絡が取れたら、彼に会いに日本へ行ってみたいんだが・・・ローマ字で書かれた住所をみせてもらうと、インクが滲んで一部読めない。確かにこれでは手紙は書けまい。幸いにもごく一部だったので簡単に推測することができた。それは偶然にも実家の近くの街だった。とても不思議な気持ちになった。今日一日いろいろな事が起こった。そのひとつひとつがつながって、今ここでこうしていること。27年も前にイギリスで書かれたこの住所を、自分たちがここで読んだいること。白犬も黒犬も、修道院、そして追突でさえどれひとつかけても、ここでこうしてボスと話をする事にはならなかっただろう。そしてそれが、遠い昔の異国の地での友情と、近い未来の二人の再会につながるのかもしれない。きっと世の中はいつもこんな調子で、いろいろな事がいろいろな形でかかわり合っているのだろう。それは特別な事ではなく、今日は偶然いくつかのことが、ちょうど意識の上でつながったのだ。

 

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白犬、黒犬、そして追突は再会の架け橋? への2件のコメント

  1. amiami より:

    白壁の模様、漆喰に、こてで描いたようなものですか? 古い建築物なんでしょうね。   犬にかまれたり、追突されたり 災難でしたね。  その後 体は大丈夫ですか?   ボスさんも27年ぶりに日本人に遭遇!して なんという偶然でしょう   再開出来る日が訪れますように!!

  2. 母ペン より:

    いろいろと困難になりそうな出来事や、痛い目にもあい、はたまた、日本人の知人を探すお手伝いすることになるのかな?全て、偶然ではなく、きっと
    、これからの人生に必要なパーツなんだと思うね。何年後かにその二人が再会することがあったら、すごいね!ちゃたとゆうにとっても感動的な事。何か人生のバトンってこんなふうに、昨日までまったく知らない人にも渡されて行くんだね。経験は大事だけど、災難には、気をつけてくださいね。ではまた、さらに善い出逢いをね。一路平安。

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